円形脱毛症のすべて|原因・治療・再発対策まで皮膚科医が徹底解説!
「朝起きたら、枕に髪の毛がたくさんついていた」「鏡を見たら、急に丸く髪が抜けているところができていた」そんな衝撃的な体験をされた方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回は、そんな突然の髪の変化に戸惑い、不安を抱えている方へ向けて、円形脱毛症という病気について、皮膚科専門医の視点からわかりやすく解説していきます。
以下のブログの内容はこちらのYouTubeでも解説しています。よろしければあわせてごらんください
「髪が抜ける病気」と聞くと、年齢や遺伝のせいじゃないかと思われがちですが、円形脱毛症は誰にでも起こりうる自己免疫疾患です。性別に関係なく、子どもから大人まで、ある日突然発症することがあるため、決して珍しい病気ではありません。「なんで自分だけ」と落ち込む方も多いですが、正しい知識と適切な治療で改善が期待できる病気です。
どうか一人で悩まず、このブログを通して少しでも安心していただければと思います。このブログでは、
①そもそも円形脱毛症とはどんな病気なのか?
②なぜ起こるのか?どうやって診断されるのか?
③そして、どんな治療があるのか?という疑問にお答えしながら、再発を防ぐためのポイントや、日常生活でできる工夫まで、丁寧にお伝えしていきます。
1.円形脱毛症ってどんな病気?
円形脱毛症は、その名の通り「円形」に髪が抜け落ちる病気です。特徴的なのは、突然、コインのような大きさの脱毛斑ができること。最初は1か所だけのこともありますが、徐々に増えてしまうこともあります。実はこの病気、子どもから大人まで幅広い年代で発症することがあり、小学生や中学生の患者さんも珍しくありません。主な原因は、「自己免疫」の異常です。本来、体を守るはずの免疫が、間違って自分の毛根を異物とみなして攻撃してしまうのです。特に毛包の周りにリンパ球が集まり、毛の成長を止めてしまいます。円形脱毛症にはいくつかのタイプがあり、・1か所のみの「単発型」・複数箇所にできる「多発型」・頭部全体に及ぶ「全頭型」・さらに頭髪だけでなく眉毛やまつげ、ひげや体毛までも抜ける「汎発型」など、進行の仕方も人によって異なります。
2. 円形脱毛症の原因とは?
先ほど触れた通り、最大の原因は自己免疫の異常です。具体的には、T細胞と呼ばれる免疫細胞が毛包を攻撃してしまうのが問題とされています。さらに、次のような要素が関係することもあります。1つめはストレスや過労:精神的ストレスは自律神経や免疫系に影響し、発症や悪化の引き金となることがあります。患者さんに「円形脱毛症ですね。」というと最近ストレスが多くて・などと言われる事がよくあります。2つ目は遺伝的要因:家族に円形脱毛症の方がいると発症リスクが上がるといわれています。3つ目は他の疾患との関係:特に、アトピー性皮膚炎や甲状腺疾患(橋本病やバセドウ病)など自己免疫に関わる疾患を持つ方は、円形脱毛症を併発するケースが見られます。当院でも甲状腺の検査をする場合があります。割と女性の方に甲状腺の病気が見つかる事があります。次に円形脱毛症の診断の話しをします。まず視診と問診が大事です。抜け毛の形、範囲、数や発症時期や進行の速さなどを確認します。次にこのダーモスコピーという機械を使います。この機械は以前ホクロのブログ(https://c.c.ikegaki-hifuka.com/?p=101255)でもだしましたが、円形脱毛症でも大活躍します。円形脱毛症以外で頭に脱毛斑ができる病気としては、トリコチロマニア,男性型脱毛症・女性型脱毛症,梅毒性脱毛,膠原病の1種である全身性エリテマトーデスなどがあります。梅毒や膠原病については、以前にブログをだしていますので、見てみてください。
(https://c.c.ikegaki-hifuka.com/?p=102903)
(https://c.c.ikegaki-hifuka.com/?p=101035)
一番馴染みのないのが、トリコチロマニアと思います。トリコチロマニアとは、「自分で自分の髪の毛を繰り返し抜いてしまう」心の病気です。日本語では抜毛症と呼ばれます。発症年齢は思春期前後の10代前半に多く、女性に多いとされています。本人が言わなかったりした場合、診断が困難な事があります。他の検査としては、ヘアプルテストがあります。ヘアプルテストは強い力を加えず優しく毛 を引っ張る検査です。それでも診断が難しい場合は、皮膚生検と言って、皮膚を一部切り取ってみないとわからない事もあります。
3.円形脱毛症の治療には、どのような方法があるのでしょうか?
髪が抜けるという見た目の変化は、想像以上に心に大きな負担を与えるものです。だからこそ、「何かできることがあるのなら知りたい」「治せる方法があるなら試してみたい」と思うのは当然のことです。円形脱毛症の治療は、患者さんの症状の程度や進行のスピード、年齢、体質などによって選択肢が異なります。
ステロイド外用薬・局所注射
まず最も基本的な治療となるのが、「ステロイド」の外用薬や局所注射です。これは、毛根の周囲で起きている炎症を抑え、過剰に働いている免疫の動きを落ち着かせる役割があります。外用薬は、塗り薬として自宅でケアできるため、比較的軽い症状の方に用いられます。一方、注射は脱毛部分に直接ステロイドを打ち込むもので、やや進行したケースや効果を早めに出したい場合に使われます。「注射は怖い…」と不安に思われる方もいらっしゃいますが、使用する量はわずかですので、内服薬のように副作用は強くないです。ただし、注射時の痛みはあります。
ステロイドパルス療法やステロイド内服
毛が抜けるのが急激に広がってしまった場合や、広範囲に脱毛が及んでいる場合には、「ステロイドパルス療法」と呼ばれる方法が検討されることもあります。これは、ステロイドを点滴で集中的に投与し、強い炎症や免疫の暴走を短期間で抑える治療法です。入院が必要なこともありますが、症状の急激な悪化を食い止めるための選択肢として、特に中〜重症例に用いられます。他には内服薬を行う場合がありますが、副作用もありかなり注意して行う必要があります。
感作療法(DPCPやSADBE)
他には「感作療法」と呼ばれる少し特殊な治療があります。これは、あえて皮膚に人工的なアレルギー性のかぶれを起こさせ、免疫の注意を毛根からそらすことで、脱毛の進行を止めようとする方法です。使用される薬剤には「DPCP」や「SADBE」などの化学物質があり、週に1回程度、医師が濃度を調整しながら薬剤を皮膚に塗布して経過をみていきます。効果が出るまでに少し時間がかかることもありますが、再発を繰り返している方や、長期的な治療が必要な方にとっては選択肢となります。治療の途中でかぶれが強く出たり、かゆみが出ることもあります。最大の問題点は、保険が効かない自費診療であるため、治療できる施設が限られるという点です。
JAK阻害薬
近年、特に注目されているのが「JAK阻害薬」という新しいタイプの飲み薬です。この薬は、自己免疫の暴走をピンポイントで抑える作用があり、これまでの治療ではなかなか効果が出なかった重症の円形脱毛症に対しても高い効果が期待されている最新の治療法です。実際に、全頭型や汎発型といった広範囲に及ぶ脱毛でも毛が再び生えてきたという症例も報告されています。しかも保険が効く治療になります。ただし、副作用のリスクもあり、決められた施設でのみ治療が可能です。
光線療法(紫外線治療)
そしてもうひとつの治療法として、「光線療法」もあります。これは、特定の紫外線を脱毛部分に当てることで、免疫の異常な働きを抑えたり、炎症を和らげたりする効果があるとされています。痛みもほとんどなく、外来通院で行えるため、負担が比較的少ないのが特徴です。副作用も少なく安全に治療が行われる事が多いです。
治療の心構え
色々な治療についてお話ししましたが、円形脱毛症の治療には「これをやれば必ず治る」という特効薬があるわけではありません。だからこそ、複数の治療を組み合わせて、自分に合った方法を見つけていくことがとても大切です。そして、円形脱毛症の治療に関しては、基本的に時間がかかります。患者さんには、「最低半年以上かかる事が多いです。」と説明する事が多いです。焦らず、根気よく取り組む姿勢が何よりも重要です。
4. 日常生活で気をつけたいこと
治療と並行して、日常生活での心がけもとても重要です。ストレスを溜めすぎないこと生活リズムを整えること。良い睡眠、バランスのとれた食事をすることが大事です。また、外見の変化が気になる場合は、ウィッグや帽子を活用するのも一つの方法です。何より大切なのは、ご本人だけで悩まず、周囲の理解とサポートを得ること。とくにお子さんが発症した場合には、学校や友人の理解も支えになります。
5. よくある質問(Q&A)
ここからは、患者さんからよくいただく質問にQ&A形式でお答えします。
Q.円形脱毛症は人にうつりますか?
いいえ。感染症ではないため、他人にうつることはありません。
Q.治るまでどのくらいかかりますか?
軽いケースでは数か月で自然に治ることもあります。先ほども言いましたが半年以上かかる事が多いです。
Q.シャンプーは普通にしても大丈夫?
たまに髪の毛が抜けるといって、シャンプーしない方がいますが、基本的にはシャンプーをしてください。シャンプーしないことにより皮膚炎などができることの方が問題です。洗う時はゴシゴシしないように、指の腹でやさしく洗ってください。私の本にシャンプーの仕方が書いてありますので、そちらも読んでみてください。
Q.子どもでも治療できますか?
はい、可能です。ただし使える薬が限られるため、お子さんの年齢や症状に合わせた治療を行います。
6. まとめとメッセージ
円形脱毛症は、見た目に大きく関わるため、不安やストレスがとても大きい病気です。でも安心してください。円形脱毛症は治療により改善が期待できる病気です。そして何より、「一人で抱え込まないこと」がとても大切です。気になる症状がある方は、ぜひ一度皮膚科にご相談ください。このブログが、少しでも皆さんの安心につながれば嬉しいです。












