背中や食べただけで背中や腕にミミズ腫れの発疹!?その症状、実はしいたけのせい?しいたけ皮膚炎とは
今日はちょっと珍しいけれども、秋になると外来で急に患者さんが増えてくる病気、「しいたけ皮膚炎」についてお話しします。聞いたことがない方も多いと思いますが、実際に診察室で「先生、急に体に赤い線が出てすごくかゆいんです」と訴えて来られる方が毎年9月以降になると増えるんです。
私は予言します。今年の秋も間違いなく、しいたけ皮膚炎は増えます。なぜそう言えるのか、その理由を医学的に解説し、さらに今からできる3つの対策をわかりやすく紹介します。
以下のブログの内容はこちらのYouTubeでも解説しております。
皆さん、バーベキューはお好きですか?
一般的にバーベキューと言えば夏をイメージする人が多いですよね。ですが、今年の夏はあまりにも暑すぎて、昼間に野外でバーベキューを楽しむのはかなり厳しかったと思います。むしろ秋口、9月以降の少し涼しくなった時期こそ、野外でのバーベキューに最適なシーズンです。家族や友人と集まって、肉や野菜を焼いて楽しむ機会も増えてくると思います。
そのときに要注意なのが「しいたけ」です。しいたけそのものは栄養豊富で、ビタミンDや食物繊維が取れる健康的な食材です。ですが、焼き加減が不十分なまま食べると、「しいたけ皮膚炎」という特殊な皮膚トラブルを引き起こすことがあります。実際、バーベキューシーズンになると、外来でこの病気を訴える患者さんが急増するのです。
では、なぜしいたけを食べて皮膚炎が起きるのでしょうか。
原因は「レンチナン」という成分です。レンチナンはしいたけに含まれる多糖体の一種で、免疫を活性化させる働きがあるため、健康食品やサプリメントにも利用されることがあります。ところが、生の状態では人の体に入ると免疫を過剰に刺激し、皮膚に炎症を引き起こすのです。
重要なのは、レンチナンは加熱すると分解されるという点です。つまり、しっかり火を通したしいたけを食べる分にはまったく問題はありません。ですが、バーベキューで焼き網の端に置いて軽く炙っただけ、あるいは中心まで火が通っていない半生の状態で食べてしまうと、レンチナンが残ってしまい、アレルギー反応のような皮膚炎を起こしてしまうのです。
症状の特徴
しいたけ皮膚炎の症状はとても特徴的です。
まず、食べてから数時間から翌日くらいに、体に赤い発疹が現れます。その発疹は線状に広がり、まるでムチで叩かれたようなミミズ腫れの形をしています。かゆみが非常に強いのも特徴です。患者さんは「とにかくかゆくて眠れない」「体中が真っ赤になってしまった」と驚いて受診されます。
この見た目のインパクトが強いため、初めて見る方は「何か重い病気ではないか」と不安になりがちです。しかし診察室で症状を見れば、皮膚科医は比較的すぐに「しいたけ皮膚炎だな」と気づきます。
鑑別疾患は
- 皮膚筋炎
- ブレオマイシン薬疹
- レンチナンそのものの薬疹の報告
- 蕁麻疹
- 湿疹
があります。
たとえば、ある患者さんは秋の行楽で家族とキャンプを楽しんだ翌日に、体幹部を中心に真っ赤な線状の発疹が広がり、かゆみで一睡もできなかったと来院されました。詳しく話を聞くと、前日の夕食で「しいたけを網の端で軽く焼いて食べた」とのことでした。典型的な経過です。
こうした事例は9月から10月にかけて多く見られます。
今からできる対策3つ
① しいたけは必ず加熱して食べること
中心までしっかり火を通すことでレンチナンは分解され、皮膚炎を起こす心配がなくなります。特にバーベキューでは表面が焦げていても中が半生のことが多いので注意してください。
② バーベキューでは特に注意
屋外だと「まだ半生だけど食べられるかな」とつい油断してしまいます。特にお子さんが焼くと焼き加減がわからないため、焼き加減には大人が気をつけてあげてください。
③ 症状が出たら早めに皮膚科を受診すること
もし赤い線状の発疹や強いかゆみが出たら、早めに皮膚科を受診してください。治療は抗ヒスタミン薬やステロイド外用薬が中心で、数日で改善することが多いです。我慢して掻き壊すと感染症に発展する恐れがあるので、早めの対応が重要です。
診察室でこれはしいたけ皮膚炎ですね。というと皆さん顔が「?」となり、色々と質問される事が多いですので、よくある質問をあげていきます。
Q1:しいたけ皮膚炎とは何ですか?
A1:生や加熱不足のしいたけを食べたあとに、体に線状の赤い発疹が出てかゆくなる皮膚炎です。
Q2:なぜ「しいたけ」で皮膚炎が起こるのですか?
A2:しいたけに含まれる「レンチナン」という成分が原因で、加熱不足だと免疫反応を起こし皮膚に症状が出ます。
Q3:症状はどんな特徴がありますか?
A3:体や腕、足などに赤く線状の発疹が出て、ムチで叩かれたように見えるのが特徴です。
Q4:かゆみは強いですか?
A4:非常に強いかゆみを伴うことが多く、夜眠れなくなる方もいます。
Q5:症状はいつ出ますか?
A5:しいたけを食べてから食後12〜48時間ほどで発疹やかゆみが出ることが多いです。
Q6:熱は出ますか?
A6:通常は発熱はありません。皮膚の症状が主体です。
Q7:うつる病気ですか?
A7:うつりません。感染症ではなく、食べた人自身の免疫反応です。
Q8:どのくらいで治りますか?
A8:数日〜1週間程度で治まりますが、薬を使った方が早く楽になります。
Q9:どんな薬で治療しますか?
A9:かゆみを抑える抗ヒスタミン薬、炎症を抑えるステロイド外用薬がよく使われます。
Q10:病院に行かなくても治りますか?
A10:軽症なら自然に治りますが、かゆみが強い場合は病院で治療した方が早く改善します。
Q11:市販薬でも対応できますか?
A11:軽度であればかゆみ止めローションなどで改善しますが、典型的な発疹が出たら皮膚科受診をおすすめします。
Q12:しいたけを食べると必ずなりますか?
A12:いいえ。加熱不足で食べた場合に起こるもので、火が通っていればまず発症しません。
Q13:焼きしいたけが危ないのですか?
A13:はい。バーベキューなどで中心まで火が通っていない状態で食べると起こりやすいです。
Q14:煮たり揚げたりした場合はどうですか?
A14:十分に加熱されていればレンチナンは分解されるため、皮膚炎は起こりません。
Q15:子どもにも起こりますか?
A15:はい。子どもでも起こります。
Q16:一度なったら、また繰り返しますか?
A16:生しいたけを再び食べれば、同じように再発することが多いです。
Q17:アレルギーとは違うのですか?
A17:典型的なIgE型アレルギーではなく、レンチナンによる特殊な皮膚反応です。
Q18:見た目がすごくひどいですが重病ですか?
A18:見た目は強烈ですが、適切に治療すれば重症化せず治るので安心してください。
Q19:他のきのこでも起こりますか?
A19:基本的にはしいたけ特有の現象です。他のきのこではほとんど報告されていません。
Q20:予防方法はありますか?
A20:一番の予防はしいたけを必ず十分に加熱して食べることです。焼き網の端で軽く炙った程度では不十分です。
まとめ
しいたけ皮膚炎は、知らないと驚いてしまう珍しい皮膚病ですが、原因や対策を知っていれば防ぐことができます。
結論としては、「しいたけは必ずしっかり加熱して食べること」。これに尽きます。バーベキューやキャンプ、秋の味覚狩りのシーズンは特に気をつけましょう。
皆さん、「たかが皮膚」と思っていませんか?しかし皮膚科医からすると、皮膚は「見える内臓」です。体の状態を映し出す大切な臓器なのです。だからこそ、皮膚に出るサインを軽視せず、しっかり向き合ってほしいと思います。












